縁あって屠蘇に携り、お蔭さまで百年を越えました。 お正月のお屠蘇は、屠蘇本体と「清酒」または「味りん」もしくはその両方が必要です。 〇清酒 吟醸? これはどれもそれぞれの味わいですが、できましたら米、米麹だけから 醸造されている純米酒が旨いと思います。 〇味りんは、必ず本みりんをお使い下さい、合成のものは屠蘇には合わないようです。 ○必要に応じて屠蘇器、祝い飾り (漆器具屋などにあります。) 〇浸 出 時 間 : 五〜十時間 味りん、清酒それぞれ半量づつの混合を基本とし、お好みの甘口、辛口に応じて配合量を 変えて下さい。甘口の方は味淋を多めに辛口の方はお酒を多めにします。 屠蘇は香りが重要ですので、新年から旧正月頃までにお使いになるのが最適です。 屠蘇の起源は三世紀頃、中国の名医といわれた華佗が考案したものと言われています。 別に「延寿屠蘇散」という薬名もあり、長寿の霊薬とされていました。 その名前の由来は 「屠蘇庵」という庵の ぬしが屠蘇酒を調合し常用することで三百歳まで命を永らえた、という故事から来ました。 屠は滅ぼすの意、蘇は悪鬼の名前で、邪気を「屠(ほふ)」り、元気を「蘇(よみがえ)」らせるという意味です。 これは中国の習俗で、年の初めにこの酒を飲むと、その年は悪い病気にかからないと人々に広まっていったのが 始まりです。 当時は度々、疫病が流行し、その予防や願望の意味で用いられたようです。 日本では九世紀(平安初期)に、唐から仏教文化と共に渡来し、嵯峨天皇が弘仁二年(西暦812年)元旦、 宮中にて儀式として行ったのが、最初であると伝えられています。 その折には薬子(くすこ)と呼ばれる童女が毒味をした後、天皇に献じられたそうですが、これが民衆に広まった のは江戸時代初期とされています。 儀式としては、新年三ガ日に装束を正し、東方を拝み、祝い飾りをつけた銚子と三つ重ねの杯を用いていただ きます。これを年少者から年長者へ上の杯から順に三回ずつ飲む、屠蘇三献の作法でふるまわれます。 年少者からいただくのは、若い人の精気を親に贈り、長生きをしてもらいたいという祈願に拠ります。 嘗て、屠蘇を用いる前や後に井戸に吊るしたり投げ入れたりする習慣がありました。これは日常生活に最も重要な 水を清め、その水を飲用することで家族が無病息災になり、毎年、繰り返すことで子々孫々の健康を願うものです。 しかし近年の上水道の普及につれて、この風習は見られなくなりました。 大晦日の夜、除夜の鐘が撞かれる頃に浸していただければ、元旦には独特の良い風味を楽しむことができます。 ご家族一同様の無病息災をお祈りします、よい新年をお迎え下さい。 マツサダの屠蘇の配合を工夫した弊社前店主故松浦貞雄は、とても三百歳には及びませんでしたが、96歳まで 健康にその生を永らえる事ができたのは、屠蘇のご利益かも知れません。 文 献: 日本料理由来事典、日本大百科全書 |